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<第34回日本造血細胞移植学会参加報告書>
日時;2012年2月24日(金)、25日(土)
場所;大阪 大阪国際会議場
報告書
関西医科大学、先端医療学専攻修復医療応用系 幹細胞生物学教授、薗田精昭教授の会長で開催された。TPPを初め各種方面での国際化が求められる中で本学会も特別講演、会長講演、教育講演、シンポジウム等の発表の多くが英語での発表が多く、一般講演を除いて抄録も日本語、英語の2つの表記がなされていた。 先に参加報告致した日本骨髄腫研究会もそうであった様に今後は多くの学会では主要となる発表は英語での報告が多くなる事が考えられる。 今回の学会の特徴は昨年の原子力発電事故を受けて、この学会の造血細胞移植が今後どの様に必要になり、どの様は位置づけでの活動が望まれるのかと言うシンポジウムが組まれた事と、今後の細胞医療分野において、再生医療学会とのかかわり合い、協力体制の構築に関するシンポジウムが組まれていた事に加え、造血細胞移植の各種ソース、特にCord Blood Stem Cell Transplantation、移植後のGVHD回避の新たな細胞医療の取り組み等の報告がなされた。多くの会場での報告で会った為、全てを聴講する事は出来なかったので、 其の幾つかをご紹介する。

1) 特別企画シンポジウム
  放射性被曝がもたらす病態と造血幹細胞移植の役割-過去、現状、今後-
 (1)緊急被ばく医療-東海村臨界事故、福島第一原発事故、そして急性放射線症候群をめぐる話題 (前川和彦 東大名誉教授、医療法人 青虎会 フジ虎の門病院整形外科病院 顧問) 前川Drからの報告は数年前に起こった東海村の臨界事故の総説を用いたAcute Radiation Syndrome(ARD)、短時間に1ミリシーベルトを超える放射線被曝における病状の報告がなされた。 当時も骨髄移植、臍帯血移植が実施されたが、放射線障害は骨髄破壊による全身症状の 悪化の進行より、皮膚のケロイド、消化器系臓器障害による、感染を含めた種々の全身症状の悪 化の進行により、死に至っており、造血細胞移植が、放射線事故による、治療の一要因とはなり えないと明言された。これには、いささか違和感を覚えた。又、現在の福島原発は一応落ち着い ており、毎日3000人体制で事故処理に当っており、被曝線量のチェックも実施されているので、万 全の態勢で実施されているので問題は無いとの報告もなされている。個人的にはTVニュースで みる政府の報告のまきなおし的な感じを得た。
 (2)広島・長崎 中程度被曝の長期間の影響 (宮崎泰司 長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科付属原爆後障害医療研究施設) 広島、長崎における原子力爆弾による被曝の実態の調査を長年に渡って調査された結果の報告 がなされ、放射線被曝による長期にわたる人体への影響を調査した非常に貴重な報告であっ た。報告は原爆による被災の主たる要因は、曝風、熱、放射線障害の順で死亡の原因となって いた。又長期間に渡る、放射線被曝による被曝中心からの距離に影響しており、中性子線では其 の距離は短く、γ線はかなり遠くまでの被爆距離となる。又放射線被曝と白血病の発症との間は 正の相関が有る事も明らかとなっており、更に甲状腺癌、乳腺腫瘍、肺がん等の相関関係も白血 病の発症以降の長期後に発病する可能性も指摘された。更にMDSに関したはこの十数年で其の 病態の研究が進められてきており、今後の調査を待たねばMDSとの相関性は明らかではなく、 更にMDS通した白血病への進行との相関性の調査は必要になる。 今回の福島原発の事故は広島、長崎の原爆による放射線被ばくとは異なり、低線量被ばくである ので、長崎。広島の様な白血病への発病の可能性を強く考慮する必要は無いと考えるが、チェル ノブイリの事故が多くの参考データを示している事と、MDSに関しては今後詳細な調査を重ねて いく必要があると報告している。
 (3)東海村事故の高線量被ばく症例に対する臍帯血細胞移植を含む治療 (井関 徹、千葉大学 医 附属病院輸血部) 先の前川Drの報告と重複する点が多くあり、東海村の事故を振り返る当時の治療野実態、主とし て臍帯血移植後の病状の推移を告された。臍帯血移植は被曝後9日で実施され、ATG、CyAを併 用、骨髄細胞は移植後生着を確認されたが、3週間以降、皮膚症状の悪化、口内炎の出現、消化 間出血、皮膚症状の悪化により、死亡された。従って、今後は細胞医療の急性期での放射線被 ばく治療には必要を考えると報告さた。
 (4)原発作業員に対する自己造血幹細胞保存の提言 (谷口修一、虎ノ門病院血液内科) 本と特別シンポジウムが企画された発端になった今回の原発事故に対する、谷口先生をリーダ ーとする我が国の移植医療に携わる医療関係者の活動、行動が今回の当学会の特別シンポジ ウムの企画になったと考える。谷口Drからは福島原発の15日に爆発事故が起こって以来、現 場で決死の覚悟で現場対応にあたる、自衛隊、消防隊、作業員の長期に渡る、低、中の放射線 被ばくに対する、白血病を含めた、骨髄機能障害に対する予防策としての自己末梢幹細胞の現 場に行く前の事前採取行い将来に対する備えを行ったらどうかと言う問題提起がなされた事に関 するその後の我が国における対応に対する、問題の提言で有り、今後の同様な事が起きた際の 当学会の取り組みを論ずる提言であった。 当時の管内閣及び学術会議メンバー谷口提言の対する結論は23日出され、その必要はなく、そ んなに強い線量による被曝は無いとしていた。しかし23日は正確な線量の公表は無く、又度の地 域でどの程度放射線量が有るのかも明らかにされてはいなかった。谷口Drを初めとする、医療関 係者、国会議員、製薬会社の方々との協議を重ねて、医学的見地からの福島原発事故処理対応 者対する、将来への健康被害に対する予防対策として真剣に協議されてきていた、主たる議論 がなされた様な形跡もなく、そんなに強い線量による被曝では無いので、作業担当者多くに事前 に末梢幹細胞(PBSC)を採取し保存しておく必然性は無いとの結論が出された。 これらの報告に対して会場(主として前川Dr)から放射線障害に対する病態の推移は骨髄移植で 対応できる様な状況ではなく、全身症状の悪化による事が死亡に繋がる主たる要因である為、自 己PBSCの実施の必要性は無いとしている。又他の研究者からPBSC採取の為G-CSF投与する 事の白血病へのリスクを考えるとPBSCの事前採取は容認できないとの発言もあった。 谷口Drからは、23日の漏れ出た放射線量の詳細な報告も無いのにPBSCの必要性が無いと判断 した其の根拠は何であったのかと、前川Drへ質問されたが政府の意図不明であるとの解答であ った。更に骨髄移植が、放射線障害の治療の大きな要因にはならないので、経済的においても其 の必然性は考えられないとのコメントがなされた。当時の政府による情報の開示による医療関係 者に対する、情報の共有化にたいする不満も谷口Drから出された。 会場から当学会の理事長として小寺先生より当学会として今後この様な事象が起きた時の当学 会の立ち位置に何してどうしたら良いかとの質問が前川Drになされた。 前川Drはそれに対して、前に示した放射線障害に対する東海村事故の治療実態を例にとり、骨 髄移植が放射線治療への大きな治療効果が期待できるのものではない。 チェルノブイリ事故の検証委員会がヨーロッパで検討されており、その会議の中でも骨髄移植に 対して有効であるとの評価は出されていないとしている。 イニシアチブをとるのでは無く、受身の姿勢を持つようにして欲しいとの見解を示された。 私の個人的見解は、今回の福島原発事故は東海村事故様な高線量被曝ではなく、低線量による 長期間の被ばくに対する将来の健康被害に対いする予防であり、東海村事故でも移植細胞は生 着している事実も明らかとなっており放射線被曝時においてもPBSCTの有用実績は立証されて 入り、東海村事故対応時の医療実績のみで骨髄移植を評価しては良くない気がする。 また、PBSCを採取した人がより危険な作業に従事させられる可能性があるので、不公平が出る と言う事も否決の原因と聞いており、経済的理由等も踏まえて、サイエンスによるける結論による 結論が導かれたのではない事に関して納得に置く結論ではではない気がしている。 又、日本造血細胞移植学会の立ち位置に対する評価に対する見解に関しても、一学会員として 非常に不快な感じを受けた。原発の安全神話を築き上げた、放射線安全委員会、保安院、我が 国の政府と同様な政策の中で結論が出された様な気がしてならない。

2日本造血細胞移植学会・日本再生医療学会合同シンポジウム -造血幹細胞移植の未来―
1) Myeloablationを必要としない造血幹細胞移植の確立に向けて 大津 真、東京大学 医科学研究所、ステムセルバンク 造血幹細胞移植は白血病等の血液疾患を初め多くの難治性疾患に応用されている治療方法で ある。先天性免疫不全の一部を除き、殆どの移植レジメンは放射線照射あるいは化学療法等の 骨髄破壊的前処置がなされている。癌患者にに対しては癌細胞の根絶の為にも何らかの細胞毒 性のある処置は不可避であるが、造血幹細胞の生着には本来これらの前処置は必要ないことも 明らかにされてきている。特に小児においては成長障害、2次生発がんの懸念、また不妊、体力 消失等の問題を有しており、可能であれば避けて、他の治療の選択の必要が感じられている。 生着不全、GVHD等の主たる要因は免疫細胞による、炎症性サイトカインによる関幹細胞、免疫 細胞にに対する攻撃によるものが原因である。 近年、MSC(間葉系細胞)移植による治験が始まっており、GVHDのコントロール、生着効率の改 善等の成績が出されている。彼等の臨床成績でもMSCを2x10e6~8x10e6/Kgをステロイド不応の GVHD惹起症例に対して使用した成績が報告された。 HLA不一致症例5、ハプロ移殖症例18、による成績が報告され、いづれもGVHDのコントロールが 出来、生着も確認され、MSC投与の有用性が確認されている。
2) 間葉系幹細胞とIL‐21シグナル遮断を利用した急性GVHDに対する新規治療戦略の開発 翁 家国、小沢 敬也、自治医科大学血液科難治性造血器腫瘍に対して行われる、同種造血幹細 胞移植はかなりの頻度でGVDHが発症し時として非常な重篤な症状を呈し、移植後の予後を大 きく作用する要因になっている。特に急性GVHDは制御不能な症例も多く、移植後の早期死亡例 一因ともなっている。急性GVHDに対する有効な標準的治療法はステロイドホルモン療法しかな い。しかしステロイド治療抵抗性の症例も多く治療に難渋する症例が多くある。 セカンドラインの治療としてATGやTNF-αインヒビター等も用いられるが、強い免疫抑制を引きお こす為、重症感染症を合併する事が多い。 自治医大からGVHDの新規治療用細胞製剤として骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)による、免疫制 御に関する試み、及びIL-21のシグナルを遮断する事でGVL効果を温存しつつGVHDを減弱させ る可能性に関しての報告が行われた。 MSCにはHLA-Class1は発現されているが、HLA- Class 2は発現されていない為種を超えての投 与が可能となり、同種移植時でのMHCを強く意識する必要は無い。 MSCはリンパ球のTh2分化よりTh1分化を強く抑制する。 更にMSCはTh17 反応を強く抑制しRegTに対して大きな影響は与えない事も明らかとなっている。 またMSCは炎症部位集積し炎症を抑制し、炎症反応の制御を行う。臨床的にも日本ケミカルリサ -チ社(JCR社)のPh1/2 Studyの結果、Liver, Gut,でGVHDを良くコントロール出来ており、 GVHDのコントト-ルに対するレスポンスレートは75%を超える結果が得られている。 このMSCの開発は米国ではオサイリス社が実施しており、Ph-2 が終了している。現在カナダで申 請中とのことで、我が国でも現在JCR社によるPh-1/2 の結果が纏められており、我が国において も症例の集積が進められている。一方IL-21はT-cell,B-Cell、NK-Cellに作用し自然免疫。獲得免 疫の双方に重要な働きを有すサイトカインである事が知られている。 IL-21のシグナルを遮断する事により、GVHDの減弱効果が認められる。 TNF-α、IFN-αのレギレーションにも関与しており、アクテクラ等が効果を示す可能性も考えられている。
                                      大塚 博之(記)
                                           以上

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